東京地方裁判所 平成5年(ヲ)2124号 決定 1993年3月03日
当事者 別紙当事者目録記載のとおり
主文
1 相手方株式会社A(以下「相手方A」という。)は、本決定送達後五日以内に、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)のうち二階、三階、四階部分から退去せよ。
2 相手方株式会社B(以下「相手方B」という。)及び相手方C(以下「相手方C」という。)は、本決定送達後五日以内に本件建物のうち二階部分から退去せよ。
3 執行官は、相手方らが本件建物のうち二階、三階、四階部分から退去するまでの間、相手方らに対し主文第一、第二項記載の命令が発令されていることを公示しなければならない。
理由
1本件は、売却のための保全処分として主文記載の命令を求める事件である。
2記録によれば、次の事実が疎明される。
(1) 申立人は、平成三年五月一日、○○○○エンタープライズ株式会社(以下「所有者甲」という。)所有の本件建物を含む不動産に対し、抵当権実行としての競売の申立をし、同月七日競売開始決定がされた。
(2) 相手方Aが執行妨害目的を有していることについて
基本事件の債務者である株式会社○○○コーポレーションは、申立人に対する債務につき、平成二年一二月三一日利息の不払いにより期限の利益を喪失した。翌平成三年一月、株式会社○○○コーポレーションは破産宣告を受け、これに伴い、同社の子会社的存在であった所有者甲も倒産した。所有者甲は、登記簿上の本店所在地の賃借事務所を引き払い、既に営業の実体はない。相手方Aは、所有者甲が倒産する直前である、平成二年一一月二二日受付で、本件建物につき、根抵当権設定仮登記(極度額四億円)及び条件付賃借権設定仮登記を経由した。また、相手方Aは、同年一二月、所有者甲から、同社が、当時の本件建物の賃借人らに対して有する賃料債権の譲渡を受けた。平成三年三月ころから、相手方Aの代表者である乙は、申立人に対し、接触し始めた。乙は、「甲には、一億円貸しているが、回収できなくなって困っている。平成二年一二月から本件建物の賃料債権の譲渡を受けたし、本件建物を私のほうで管理している。私のほうで地上げを始めている。当社は地上げの実績もある。」とのことであった。しかし、その後、申立人は、乙の兄が暴力団住吉会の幹部で、通称「会長」といわれていることを知るなどしたことから、相手方Aの話には乗れないし、交渉相手にはできないと判断して、平成三年五月一日前記のとおり本件競売の申立をした。
第一回目の売却実施命令が発令された直後である平成四年二月、相手方Aの代表者乙は、申立人に、「本件建物の半分以上は明け渡しを確保した。」と地上げの話を持ちかけてきた。申立人が応じられない旨述べると、乙は、「あの物件を落とすとか、買ったりするのか。誰かが落としたら、その相手に悪さをするからね。」とすごんだ。そこで、申立人はその後相手方Aとの交渉を一切やめた。その後、平成五年二月二二日、申立人代理人弁護士に対し、相手方Aの子会社の者と称する者から電話があり、「Aは本件建物全体を管理している。話があるならAがうけたまわる。○○リースは落札するのか。二階もAのものでCを店長としている。Bは関係ない。私が担当で、Aがあのビル全体を管理しているから、競売の問題について今後の話をしたいと思っている。」と申し入れてきた。
相手方Aは、本件建物(但し、一階部分を除く。)の鍵を保管して本件建物全体を管理し、事務的な管理を有限会社○○不動産に委託している。
(3) 本件建物の占有状況
平成三年六月、現況調査担当執行官が、本件建物に臨場した際の、本件建物の占有状況は次のとおりであった。
ア 本件建物の二階部分は、相手方Bが平成三年二月一日(所有者甲が倒産した直後)から賃借りし、これを平成三年五月一日(本件競売の申立日)相手方Cに事務所として転貸したとのことであったが、看板や表示もなく物品等も少なく閑散とした状況であった。
イ 本件建物の三階部分はレコード店が、四階部分はゴルフ会員権販売会社が賃借して、正常に営業をしていた。
(4) 占有状況の変化
ところが、平成四年暮から平成五年にかけて、本件建物の占有状況は次のとおり変化した。
本件建物の二階部分は、「夢工場」と称するゲームセンターが営業を始めた。
本件建物の三階部分は、平成四年末までにそれまでの賃借人が転出した。その後、営業状態も経営者も不明の「Jリーグ」なるゲームセンターが出現したが、休業しており、連絡先も不明である。
本件建物の四階部分は、平成五年一月二九日、従前の賃借権者が転居して、空室となったが、相手方Aと前賃借権者の名前が記載された表示が入り口ドアーに掲示された。
(5) 「相手方B」について
申立人の社員が、電話局に照会したところ、株式会社Bについては、「該当なし」であった。代表者の丙についても同様曖昧であった。相手方Bの登記簿上の本店所在地には、人気のない倉庫があるのみで事務所らしきものはなかった。また、その付近の建物の郵便受けに手書きの紙で「B、丙、T」の表示があったが、対応する老朽化したアパートの部屋は不在であった。倉庫の隣の居住者に聞いたところ、「隣の倉庫は、誰が使っているのか分からないが、時々、騙されたとか債権取立に来たという人が、この住所を尋ねてきて、結局、私共に質問して帰っていくことの繰り返しである。アパートには、丙の息子と思われる人が一人で住んでいる。丙と思われる人は最近は見ていないが、以前はたまに来ていた。そのときはベンツに乗って来ていた。」とのことであった。相手方Bの代表者である丙の商業登記簿上の住所地を尋ねたところ、「○○○工務店」との看板の掲げられた事務所があったが、誰も住んでいる様子ではなかった。付近の者に尋ねたところ、「しばらく前から誰も住んでいない。倒産して逃げていったようである。」とのことであった。
また、申立人は抵当権に基づく物上代位として本件建物につき賃料の差押命令を得たが、その第三債務者の陳述として、相手方Bは、「平成二年一二月に賃料債権譲渡の通知を受けている。相手方Aが譲受人である。」との陳述書を返送した(しかし、相手方Bは上記のとおり、賃貸借を開始したのは、平成三年二月一日であると主張しており、賃借りする前に債権譲渡の通知を受けたという不自然なことになり、この点からみて相手方Aと相手方Bの密接な関係を窺わせる。)。
申立人の調査によれば、相手方Cは、「夢工場」の店長とのことであった。
申立人の代理人が、平成五年二月一七日、本件建物の事務的な管理を委託されている前記○○屋不動産の担当者から聴取したところ、同人は、「本件建物の二階の賃借人はBで、BがCを店長としておいている。」と述べた。しかし、平成五年二月二二日、前記のとおり、相手方Aの子会社の者と称する者から、申立人の代理人は、「本件建物全体を相手方Aが管理している、二階もCを店長としているが、Aが管理している。Bは関係ない。」との電話を受けている。
3以上認定の事実、すなわち、相手方Aは、所有者甲に対し、一億円の債権を有する旨主張しており、所有者甲が平成三年一月に倒産する直前である平成二年一一月本件建物につき根抵当権設定仮登記及び賃借権設定仮登記を経由し、同年一二月、本件建物の賃料債権の譲渡を受けていること、相手方Aは本件建物の鍵を保管して本件建物全体(但し、一階部分を除く。)を管理していること、相手方Aの代表者は申立人の社員に対し、本件建物等の地上げを申し入れ、また強迫的言辞に及んでいること、によれば、相手方Aは、所有者甲と共謀のうえ、執行妨害目的で本件建物(但し、一階部分を除く。二階部分は相手方Cを占有補助者として占有し、三階、四階部分は空室として占有している。)を占有しているものと認められる。次に、本件建物の二階部分については相手方Bが賃借権を有していると主張しその旨の契約書が作成されてはいるが、相手方Bは本店所在地に事務所もなく、代表者丙も登記簿上の住所に居住していない等実体のない会社であり、その主張する賃借権は、所有者甲が倒産した直後の平成三年二月一日に締結されたものであり、また、本件競売の申立日に相手方Cに賃貸したと主張していること、相手方Bは、「夢工場」の店長に過ぎない相手方Cと転貸借契約を締結していること、相手方Bは賃料債権譲渡通知に関して不自然な陳述をしていることなどからすれば、相手方Bの賃借権ないし相手方Cの転借権はいずれも濫用的なものであり、本件建物の二階部分を仮に相手方Aではなく相手方Bが占有している(相手方Cを店長として)としても、相手方Bは相手方Aと密接な関係を有し、相手方Aが執行妨害目的で本件建物の二階部分を占有していることを知りながら、その意を受けてこれを占有しているものと認められるから、保全処分の相手方になるものである。また、相手方Cは、相手方Bとの間で転貸借契約を締結してはいるが、その実質は店長に過ぎないものであり、本来、相手方Aまたは相手方Bの占有補助者に過ぎないものであるから、保全処分の相手方になるものである。
執行妨害を目的とする者が競売建物を占有するときは、入札希望者は激減するから、競売不動産の価格は著しく減少するということができる。よって、申立人に対し、相手方B及び相手方Cのためにそれぞれ金一〇万円、相手方Aのために金五〇万円の担保を立てさせたうえ、主文のとおり決定する。
(裁判官松丸伸一郎)
別紙当事者目録
申立人 ○○リース株式会社
代表者代表取締役 ○野○根
申立人代理人弁護士 野島親邦
相手方 株式会社A
代表者代表取締役 ○中○雄
相手方 株式会社B
代表者代表取締役 丙
相手方 C
別紙物件目録
(住居表示・東京都渋谷区桜ケ丘町)
所在 東京都渋谷区桜丘町○番地○
家屋番号 ○番○
種類 店舗兼事務所
構造 鉄筋コンクリート造陸屋根六階建
床面積 壱階 50.39m2
弐階 50.39m2
参階 50.39m2
四階 50.39m2
五階 50.39m2
六階 10.02m2